2024/3/14

「アッシュさん見てください、こんなに高くまで。」

夜空へ飛び立つこと数分、火の灯された小さな気球が上空まで昇ってきていた。

古の神が消え、この地に留められていた魂たちが解き放たれてゆく。

彼らが迷わないようこの灯りで導こうというのが

背中に乗せた客人たちの言うことだった。

仲間が飛ばした天灯を、戦士と詩人が上空から見守る。

反応を見るに、その計画は問題なく進行しているようだ。

「・・・よかったですね。これでみんな、自由になれる。」

「・・・・・・」

詩人の小さな呟きに戦士は頷きで返す。

ふと、出会った頃の心痛な面持ちが薄まっているように見えた。

彼もまた長く囚われていたものから解放されたのだろうか。

「一度離れる。しかと捕まるように。」

「はっ、はいっ」

注意を促し、火を消してしまわないよう羽ばたきを緩め、風の流れのまま滑空する。

こんなにも思うまま空を駆けたのはいつ以来か。

地上からは天灯が放たれ続け、それは細い光の線に見えた。

その道しるべを目に焼き付けながらただ祈る。

王や同胞たちの魂が安らぎの地へ辿り着けるようにと。



「優しきしるべ」
2024/3/14



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