2024/1/22

「・・・世話になったな。」

呟くように言うと、男はこの身を生い茂る野草に隠すよう据え置いた。

そのまま背を向けると振り返ることなく足を進める。

かつて”死神”と呼ばれていた戦士の手に、もはや刃は無かった。

彼の向かう先にはこの地で出会った仲間の姿があった。

やがてその背中は逆光にかすんでいく。

このような眩しい日差しはいつぶりだろうか。

淀んだ空気は澄んだ風にかき消され、彼方へと散っていった。

時が進み出すのを感じると同時に、自らの役割の終わりを悟る。

いかに聖剣と言えど、この平和な時代には必要ない。

自分はこのまま再びの眠りにつくのだろう。

ふと気配を感じ周囲を探ると、男を見送るように白い蝶が飛んでいた。

彼らを導いた気高き魂。

永劫の呪縛から解き放たれた今、静かに終わりの時を迎えてゆく。

羽ばたき続ける白い影は蒼穹に溶け消え、朽ちた城跡にはただ風が吹いていた。

この地の嘆き悲しみを浄化した強き心の持ち主たち。

どうか彼らに清き風の祝福があらんことを。



「清き風の祝福」
2024/1/22



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