「・・・世話になったな。」 呟くように言うと、男はこの身を生い茂る野草に隠すよう据え置いた。 そのまま背を向けると振り返ることなく足を進める。 かつて”死神”と呼ばれていた戦士の手に、もはや刃は無かった。 彼の向かう先にはこの地で出会った仲間の姿があった。 やがてその背中は逆光にかすんでいく。 このような眩しい日差しはいつぶりだろうか。 淀んだ空気は澄んだ風にかき消され、彼方へと散っていった。 時が進み出すのを感じると同時に、自らの役割の終わりを悟る。 いかに聖剣と言えど、この平和な時代には必要ない。 自分はこのまま再びの眠りにつくのだろう。 ふと気配を感じ周囲を探ると、男を見送るように白い蝶が飛んでいた。 彼らを導いた気高き魂。 永劫の呪縛から解き放たれた今、静かに終わりの時を迎えてゆく。 羽ばたき続ける白い影は蒼穹に溶け消え、朽ちた城跡にはただ風が吹いていた。 この地の嘆き悲しみを浄化した強き心の持ち主たち。 どうか彼らに清き風の祝福があらんことを。 |