「まったく・・・ついてないね。」 陰気な空模様に思わず声が漏れた。 朽ちた城跡に忍び込んだものの収穫は無く、突然の雨で足止めを食うことになってしまった。 体を伝う水の感覚も相まって気分が落ち着かない。 「まさか、おとぎ話と言われていた緑の国が実在していたとはな。」 近くに腰かけた男が口を開いた。 濡れた金色の髪をかき上げ、自信に溢れたいつもの笑みを見せてくる。 「あんたは楽しそうだね、ランディ。」 呆れ半分に肩をすくめると、男から奪い取ったマントが小さく揺れた。 暖を取るには心許ないが、無いよりはマシだ。 「魔道を極める者なら当然だろう?」 古に存在した、魔法の加護を受けた国--- 時が流れ、もはや何も残っていないことを知ってもなおその目は探究心に満ちていた。 どうしてこんなにも輝かしいのか、鬱陶しいと同時に羨ましくもなる。 「無駄足だろうと構わねえよ。」 一瞬、自分に投げかけられた言葉かと思ったが、その目は遥か遠くの空に向けられていた。 「精々足掻いてやろうじゃねえか。俺にできるのはそのくらいだろうしな。」 自分たちは知っている。 多く者の足掻きが災いの神を祓い、世界は今も同じ姿を保っているということを。 この男はきっと、挫折も徒労も、すべて糧にしながら己の道を歩んでいくのだろう。 「・・・・・・」 かつて見捨てた仲間たちに報える生き方を、自分も見つけなくてはならない。 大穴の底で見た「目」は、今でもこちらを見据えている。 足掻き続けるしかないのだ、彼らの命に向き合いながら。 「・・・くれぐれも、こっちを巻き込まないよう気をつけとくれよ。」 平静を装いながら、視線を空に投げた。 それを聞いた男がどんな顔をしているのか、見なくてもわかった。 |